こんにちは、kyan(@sumibi_kyan)です♪
本日は、前回の記事で書いた咬傷事故を機に、飼い主にどのような法的責任が発生するか、頭の整理を兼ねて自分用に調べまとめた内容を一般向けに再編成してお送りします。
咬傷事故が起きた際の飼い主の法的責任について
飼い主は民事、刑事、行政上の義務を負う
基本的な考え方としては自動車事故が発生した時と同じですね。
咬傷事故を起こした飼い主にはそれぞれ独立して責任が発生し、義務を果たすことが求められます。
ではどんな責任を負うか、順番に見ていきましょう。
民事責任
不法行為に基づく損害賠償義務
民法718条に基づき、被害者に対して損害賠償義務が発生します。
(動物の占有者等の責任)
第七百十八条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
賠償の範囲に限定はありませんが、一般的には治療費、治療に要した雑費(交通費など)、治療期間中に休業した場合の補償、壊された物の修理代、慰謝料などでしょうか。
kyanが噛まれた事例で言えば、請求しなかったズボンの修理(もしくは新調)代は本来、賠償の範囲に含まれます(請求するかはまた別)。
民事訴訟では原則として原告(被害者)側が立証責任を負いますが、同条は「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をした」点につき被告(加害者)側が立証責任を負います(「ただし~」以下の文章によって、立証責任が転換されていることがわかります)。
一般に立証責任を負う側は不利ですので、賠償責任を免れるのは難しいかなと思います。
(「何かを証明する」というのは結構大変です)
賠償は各種の保険で賄える場合があります
お手持ちの保険内容を確認してみてください。
専用の保険でなくとも、火災保険や自動車保険の特約(日常生活賠償責任保険特約)でカバーできる場合もあるかと思いますので、要チェックです。
この手の特約はわずかな掛け金で大きな安心が得られます。賠償費用が高額になることも十分考えられますので、ぜひ加入しましょう。
ノーガード(無保険)はオススメしません!
ウチではアニコム損保のペット保険の特約で対応可能です。
刑事責任
過失傷害罪・業務上過失致死傷罪
刑法の209条(過失傷害罪)や211条(業務上過失致死傷等)等に基づき、刑事責任を問われる可能性があります。
第二百九条 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
罰則があり、過失傷害罪であれば30万円以下の罰金又は科料、業務上過失致死傷罪は5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科せられます。
過去の事例では「放し飼いにされた闘犬が歩行者を襲ってケガ(死亡)させた」など「誰が見てもこれはおかしいよね」といった悪質な事例が取り上げられることが多いですが、法令上は偶発的な事故であっても責任を問われる可能性があります。
以下は重過失傷害に問われた事例です(ヤフーニュースへのリンク)
ちなみに会社員ならば、罰金刑以上の刑が確定すると就業規則における信用失墜行為として勤務先から懲戒処分を受ける可能性があります。こうなると日常生活に支障をきたし「たかがペットの起こした事故」では済まなくなりますね。
kyanが噛まれた事例で言えば過失傷害罪の構成要件を満たしますが、同罪は親告罪(=警察は被害者からの告訴がないと立件できない、同209条2項)のため加害者はお咎めなし状態です。
行政責任
保健所への通報義務
事故発生から24時間以内に「飼犬の咬傷届」を犬の登録をした自治体へ提出する義務があります。
(札幌市であれば札幌市動物の愛護及び管理に関する条例11条、および施行規則7条。条例は自治体ごとに制定されています)
札幌市動物の愛護及び管理に関する条例
(犬による事故の届出)
第11条 犬の飼い主は、当該犬が人又は他の動物(哺乳類に限る。次項及び第32条第4号において同じ。)をかんだ場合には、直ちに、適切な応急処置及び新たな事故の発生を防止する措置を講じ、当該犬による事故の状況及び当該措置について市長に届け出るとともに、当該犬を獣医師に検診させなければならない。
2 犬にかまれた場合は、そのかまれた者若しくはかまれた他の動物の飼い主又はその代理人は、速やかに市長に届け出なければならない。札幌市動物の愛護及び管理に関する条例施行規則
(犬による事故の届出)
第7条 条例第11条第1項の規定による届出は、飼養している犬による事故発生届(様式4)によるものとし、獣医師の診断書を添えなければならない。
2 条例第11条第2項の規定による届出は、犬による被害届(様式5)によるものとする。
狂犬病臨床診断の受診義務
事故発生から速やかに飼犬を獣医師の診察を受けて「検診証明書」をもらい、犬の登録をした自治体の保健所と被害者に提出する必要があります。
kyanが噛まれた事例で言えば、加害者は行政責任を果たしていません。
保健所へ通報したかは知りませんが、検診証明書は届きませんでした。
検診証明書をきちんと提出してもらえば、「狂犬病に罹患していないだろうか」とその後しばらく不安なまま過ごすこともなかったろうに、と思います。
(とはいえkyanも帰宅後にあれこれ調べる中で知ったので強くは言えませんが…)
なお、調べてわかったことですが咬傷事故の場合は、被害者も被害届を提出する必要があるそうです。
このことはもっと多くの人に知ってもらいたいし行政も周知してほしいなと思います。
感想
kyanは前回の被害者であると同時にペットの飼い主でもあるので、両面の感想があります。
被害者目線ですと、知らないってことはおっかない(=怖い)ですね。
噛まれたら治療をする、治療費は誰が負担する…なんてことは一般常識で思いつくかもしれませんが、狂犬病の怖さや診断が必要といった話は「引き出し」がなければ思いつきようがありません。
本来は飼い主がきちんと把握して飼育し、事故の際は積極的に義務を果たすべきです。しかし義務の内容を知らなかったり、あるいは知らないフリをされたら、正当な権利は被害者の側が指摘し請求しないと守られません。
被害者も知らなければウヤムヤになって被害者が損害を負担するというおかしな結果になってしまいます。
一方で飼い主目線で感じたのは、しつけ、管理と事故への備えの大切さ。
普段から家族以外の人間や動物を威嚇しないようしつけること、飼い犬が意図せず飛び出さないようリードすること、第三者に万が一被害を与えてしまった場合にどうすべきか整理し、かつ補償の準備をきちんと行っておく必要を感じます。
飼い主の皆さん、愛犬(ペット)の管理はしっかりしましょう!
考えてみれば、「キャンプ場で犬に噛まれた」って割とある話ではないでしょうか?
(それまでトラブルに遭わなかったのがラッキーだった?)
噛まれてから急いで調べてもよくわからない…なんてならないよう、多くの方に知ってもらえましたら幸いです。
さて、次の記事では「では咬傷事故が発生した際に何をどう動いたらよいのか」「咬傷事故に遭わないためにどうしたらよいか」を検討していきます。
「○○の場合は××になる」といった事例ごとに検討すべき点もありますが、文量の都合上および法律解釈を行う立場にはないため記載していません。
興味を持たれた方は、下記参考先のページや、「咬傷事故 判例」などのキーワードで調べるとよいかと思います!
参考
記事化にあたり下記のページを参考にさせていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。
犬による咬傷事故(鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六氏)
※現在リンク切れ
犬による咬傷事故処理マニュアル (浜松市、PDF)
ペット賠償責任特約について(アニコム損害保険株式会社)
犬による咬傷事故について(札幌市)
動物愛護管理等条例の概要(環境省、PDF)
法令検索(e-GOV、総務省行政管理局)
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